「健康経営」という言葉を聞いたことがありますか?従業員の健康管理を単なる福利厚生としてではなく、企業の成長のための戦略的な投資として捉え、実践することです。この取り組みを積極的に行っている企業を「見える化」し、社会的に評価する制度が「健康経営優良法人認定制度」です。
特に中小企業にとって、健康経営への取り組みは、人材確保や生産性向上、企業イメージ向上など、多くのメリットをもたらします。
この記事では、中小規模法人部門の健康経営優良法人認定について、認定までのステップや主な取り組み内容、そして取得するメリットを、東京都の例を交えながら分かりやすく解説します。
健康経営優良法人認定制度とは?
この制度は、経済産業省と日本健康会議が共同で推進しており、従業員の健康管理を経営的な視点から戦略的に実践している企業を認定するものです。中小規模法人部門の対象は、例えば不動産業であれば従業員100人以下の企業などが該当します。認定されると、健康経営に取り組む企業として社会的信頼を得られます。
申請は毎年8月〜10月頃に行われ、審査を経て翌年3月頃に認定が発表されます。認定の有効期間は1年間で、継続のためには毎年の更新申請が必要です。
認定取得までの道のり(東京都・協会けんぽの例)
健康経営優良法人認定を取得するためには、計画的かつ段階的に取り組むことが重要です。ここでは、東京都の協会けんぽに加入している中小企業を例に、認定取得までの基本的なステップをご紹介します。
【重要ポイント】
東京都の中小企業が健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定を目指す場合、「健康企業宣言」から始め、「銀の認定」を取得することが必須条件となっています。これは地域や加入している健康保険組合によって異なる場合がありますが、多くの地域で健康経営の取り組みを段階的に進めるための制度が用意されています。
大まかな流れは以下の3つのフェーズで進みます。
STEP1 健康企業宣言
これは、企業が健康づくりに取り組むことを宣言する制度です。認定取得の最初のステップとなります。
・目的 : 企業全体で健康経営を推進することを社内外に表明し、取り組みを開始する
・主な内容
- 協会けんぽ東京支部など、加入する保険者へ応募書類を提出します。
- 健康宣言の取り組みを社内外に発信することが必須です。
- 以下の5つの必須項目全てと、7つの選択項目から3項目以上を選択して取り組みます。
必須5項目 : 100%健診実施、健診結果活用(再検査勧奨)、特定保健指導活用、健康づくり環境整備(担当者設置)、禁煙(受動喫煙対策)
選択7項目 : 食生活改善、運動習慣促進、心の健康づくり、性差の健康課題、睡眠の質改善、歯・口腔健康、飲酒対策
期間イメージ(東京都・2026年度認定目標の場合): 2025年4月〜9月頃
ポイント
事前に健診受診率100%を達成し記録を残しておくこと、健康づくり担当者を設置することがスムーズに進めるコツです。取り組み内容の証拠資料(写真、議事録など)を蓄積し、社内外への発信や従業員の巻き込みも行いましょう。
STEP2 銀の認定取得(東京都の場合)
健康企業宣言に基づいた取り組みを約6ヶ月間実施した後、その結果を報告し、一定の基準を満たすと「銀の認定」が取得できます。
•目的: 健康企業宣言で表明した取り組みを着実に実施し、評価を受ける。
•主な内容
- 必須5項目と選択3項目以上の取り組み実績を収集します。写真、議事録、アンケート結果、参加記録などが証拠資料となります。
- 取り組み結果をまとめたレポートを作成し、協会けんぽ東京支部など、加入する保険者へ提出します。
- 評価スコアが100点満点中80点以上で「銀の認定」取得となります。
期間イメージ(東京都・2026年度認定目標の場合): 2025年10月〜12月頃(申請)、2026年1月末頃(認定)
ポイント
月次で取り組み状況をチェックし、証拠資料を整理・蓄積することが重要です。自己採点を行い、80点以上になるように取り組みを強化すると良いでしょう。 東京都では、この「銀の認定」を取得していることが、健康経営優良法人認定の申請要件となります。
STEP3 健康経営優良法人申請・認定
銀の認定を取得したら、いよいよ健康経営優良法人認定の申請準備に入ります。
•目的: 健康経営優良法人としての認定を目指し、詳細な取り組み内容を申請する。
•主な内容
- 「ACTION!健康経営」ポータルサイトでIDを取得し、申請要件を確認します
- 健康経営度調査への回答や、申請書の作成を行います。申請書は38ページ程度のボリュームになることがあります
- 主な評価項目は以下の通りです
経営理念・方針 | 健康宣言の社内外発信、経営者の健診受診など |
組織体制 | 健康づくり担当者の設置、40歳以上の健診データの保険者への提供、具体的な推進計画など |
制度・施策実行 | 従業員の健康課題把握と対策、心身の健康づくり対策など。定期健診受診率100%の達成や受動喫煙対策の完全実施は特に重要な評価項目です |
評価・改善 | 取り組みの効果測定と継続的な改善(PDCA)(必須項目) |
法令遵守・リスクマネジメント | 労働安全衛生法等の遵守、ストレスチェック実施など |
申請書では、自社の健康課題に基づいた推進計画を、数値目標と達成期限付きで具体的に記述することが求められます。
•申請期間(全国共通): 毎年8月中旬〜10月中旬頃
•審査・認定
・申請書類提出後、健康経営優良法人認定委員会による審査が行われます(約4〜5ヶ月)。必要に応じて追加資料の提出を求められることもあります。
・申請料として16,500円(税込、中小規模法人部門)が必要です(不認定の場合も返金なし)。
・認定結果は翌年3月頃に発表されます。
ポイント
申請開始前にID取得、申請要件の確認、申請書のダウンロードと記入練習をしておきましょう。健診受診率100%の証明資料、健康宣言実施の証明資料、推進計画の詳細などが重要です。申請内容と法人の実態が一致しているか、証拠資料があるかが審査でチェックされます。
不認定理由として、必須項目の回答漏れや不備、具体的な推進計画の不十分さなどが多いようです。
【時系列イメージ】
主な取り組み(東京都例) | ポイント | |
申請前年 | ||
春〜夏頃 | フェーズ1 STEP1 健康企業宣言 協会けんぽ等に宣言応募。必須・選択項目の取り組み開始。社内外への発信。 | 健康づくり担当者設置、健診受診率100%達成の準備。取り組みの記録開始。 |
秋〜冬頃 | STEP2 銀の認定取得 約6ヶ月の取り組み実績を報告。協会けんぽ等へ提出。審査。銀の認定取得(東京都の場合必須)。 | 取り組み実績の証拠資料(写真、参加記録等)を整理。月次チェック。自己採点。 |
申請年 | ||
夏頃(7月〜) | STEP3 健康経営優良法人申請準備 申請ID取得、申請要件確認。申請書ダウンロード、記入練習。推進計画策定。 | 銀の認定取得を確認。健康課題に基づいた数値目標付き計画。健診率100%の証明準備。 |
8月中旬〜10月中旬 | フェーズ2 健康経営優良法人申請 申請書作成・最終確認。オンラインで提出。申請料支払い。 | 提出締切厳守。必須項目回答漏れ・エラー解消。証拠資料の整理・保管。 |
11月〜翌年2月 | 審査期間 認定委員会による審査。必要に応じて追加確認対応。 | 申請内容の根拠となる資料をいつでも提出できるよう準備。 |
翌年3月頃 | 認定発表 認定結果発表。認定企業はロゴマーク使用可能。 | 認定取得!ゴールではなくスタート。継続的な取り組みと認定の活用へ。 |
認定取得に必要な主な取り組み項目
健康経営優良法人認定では、以下の項目を中心に評価が行われます。特に中小企業が取り組みやすい、または重要視される項目について解説します
定期健康診断受診率100%の達成
これは多くの部門で必須とされる重要な基準です。パート、アルバイトを含めた全従業員の受診が必要です。
外勤が多い業種(営業職など)では、休日健診や巡回健診、複数の健診機関提示などの工夫が効果的です。未受診者への受診勧奨と、受診状況の記録・管理が重要です。
健康課題に基づいた具体的な推進計画
自社の健診結果やストレスチェック結果などから健康課題を分析し、それを解決するための具体的な取り組み計画を立てます。計画には、数値目標、実施期間、責任者を明確に設定します。
客観的に測定可能で、健康経営と直接関連する指標を設定することが重要です
受動喫煙対策の完全実施
健康増進法に準拠した喫煙環境整備が必要です。特に来客が多い場合は、屋内原則禁煙、喫煙専用室の技術的基準遵守、店舗入口付近での喫煙防止措置など、徹底した対策が求められます。
評価・改善(PDCAサイクルの実施
健康経営の取り組みは、一度実施して終わりではなく、効果測定と改善を継続することが必須項目です。
PDCAサイクルを回すイメージです。
- P (計画 Planning)・・健康課題分析、数値目標設定
- D (実行 Doing)・・健康施策の実施、従業員への周知
- C (評価 Checking)・・効果測定、進捗状況確認(健診受診率、労働時間、メンタルヘルス状況などをモニタリング
- A (改善 Action)・・取り組みの見直し、改善策実施
従業員への健康づくりインセンティブ、推進会議の定例化、従業員満足度調査などが評価・改善を進める上で有効な施策例です。
健康経営優良法人認定を受けるメリット
健康経営優良法人に認定されると、企業にとって様々なプラスの効果が期待できます
【対外的なメリット】
メリット | 具体的な効果 |
企業イメージ向上・信頼性向上 | 健康経営に取り組む企業として社会的評価が高まる。案内資料やホームページ、店舗などで認定ロゴマークを使用し、信頼感を醸成できる。 |
採用力強化・人材確保 | 就職先を選ぶ上で健康経営への取り組みを重視する求職者が増えており、優秀な人材確保につながる。応募者数の増加例も報告されている。 |
取引先からの信頼向上 | 健康経営優良法人としての企業イメージ向上により、取引先からの信頼度が増す。新規取引先の増加例も報告されている2。 |
金融面での優遇 | 信用保証協会の保証料率優遇制度や、金融機関による融資優遇措置を受けられる場合がある。 |
公共入札での加点 | 自治体によっては、公共入札において加点評価の対象となる場合がある。 |
【社内的なメリット】
メリット | 具体的な効果 |
生産性向上・業績向上 | 従業員の健康増進により、欠勤・遅刻の減少、集中力やモチベーション向上を通じた業務効率化、生産性向上につながる。営業活動の活性化による売上向上も期待できる。 |
コスト削減 | 病気による欠勤やプレゼンティーイズム(出勤しているが不調で生産性が低い状態)が改善され、人件費の効率化につながる。医療費削減の効果も報告されている。 |
離職率低下・定着率向上 | 従業員の健康と働きがいを重視する企業として、従業員満足度が向上し、離職率の低減につながる。定着率向上の効果も報告されている。 |
従業員の活力向上 | 健康診断の受診促進や健康増進施策を通じて、従業員一人ひとりの健康意識が高まり、心身ともに活力が増す。 |
社内コミュニケーション活性化 | 健康イベントや取り組みを通じて、従業員同士の交流が促進される2。 |
勤務環境改善 | 受動喫煙対策やオフィス環境整備などが進み、より快適な職場で働けるようになる。 |
地域(保険者)との連携について(東京都・協会けんぽ等の例)
中小企業の健康経営では、加入している健康保険組合などの保険者や、地域の支援機関との連携が重要です。
東京都の場合、健康経営優良法人認定の前に協会けんぽ東京支部や東京不動産業健康保険組合などが行う「健康企業宣言」に参加し、「銀の認定」を取得することが必須となっています。これは、地域における健康経営推進の取り組みの一環と言えます。
協会けんぽの支部や各健康保険組合では、健康経営に関する情報提供や相談窓口、取り組みのテンプレート、好事例の紹介など、様々なサポートを提供している場合があります。これらの地域の支援を積極的に活用することが、認定取得への近道となります。
認定取得はゴールではなくスタート
健康経営優良法人認定は、単に認定マークを取得することが最終目標ではありません。認定を契機に、健康経営の取り組みをさらに深化させ、継続的にPDCAサイクルを回していくことが重要です。
認定取得後も、健康課題のモニタリングを継続し、新たな目標を設定して施策を実施します。また、認定基準は毎年更新される可能性があるため、最新情報を確認し対応していく必要があります。
さらに、より上位の認定(健康企業宣言、金の認定、ブライト500など)を目指すことで、企業の健康経営レベルをさらに向上させることができます。SDGsや働き方改革といった他の取り組みと連携させることで、相乗効果も期待できます。
健康経営優良法人認定取得成功の鍵は、以下のポイントをしっかりと押さえることです
- 経営トップの関与と方針表明
- 自社の健康課題の正確な把握
- 健康課題に基づいた、数値目標付きの具体的な推進計画策定
- 取り組みの実績を示す証拠資料の確実な収集・保管
- 定期健康診断受診率100%の達成
- 認定後の継続的なPDCAサイクル実施と認定の活用
- 加入している保険者や地域の支援機関の活用
まずは、健康経営推進体制を構築し、加入している保険者(協会けんぽなど)が提供する健康企業宣言などの制度への参加を検討することから始めましょう。
計画的に準備を進め、ぜひ健康経営優良法人認定を目指してください。
健康経営への投資は、人材への投資であり、企業の未来への投資です29。この記事が、御社の健康経営推進の一助となれば幸いです。
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