それ、クレームですか?カスハラですか? 10月施行前に会社が決めておきたい境界線

リーダー管理職

「お客様からのクレームだから、仕方がない」

これまで、そんな言葉で現場の従業員に対応を任せてきた会社も少なくないと思います。
しかし、2026年10月1日から状況が変わります。

改正労働施策総合推進法の施行により、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防止するために必要な措置を講じることが、すべての事業主に義務づけられます。

では、会社は何をすればいいのでしょうか。
そして、そもそも「正当なクレーム」と「カスハラ」の境界線は、どこにあるのでしょうか。

10月から「カスハラ対策」が会社の義務に

今回改正されたのは「労働施策総合推進法」です。※リーフレット001662629.pdf

厚生労働省の指針では、職場におけるカスタマーハラスメントについて、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。

① 顧客等の言動であること

② 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること

③ その言動によって、労働者の就業環境が害されること

ここで注意したいのは、お客様からの苦情=カスハラではないということです。

商品に不具合があった。 説明が間違っていた。 従業員の接客に問題があった。

こうした場合に、お客様が改善や説明を求めること自体は正当な申入れです。

会社には、正当なクレームにはきちんと対応しながら、社会通念上許容される範囲を超えた言動からは従業員を守るという、両方の視点が必要になります。

「要求の内容」と「要求の仕方」を見る

ホテルの部屋の歯ブラシがなかったから、部屋代をタダにしろと言われた

電話でクレーム聞いていると、2時間大声で怒鳴る人。
ずっと我慢している・・

注文の定食が遅いから土下座して謝れと言われた。

お前のところの口コミ、悪く書いてやるからな、覚えておけって言われた。

厚生労働省の指針では、判断する際に「言動の内容」と「手段や態様」の両方に着目しています。

たとえば、

  • そもそも理由のない要求
  • 契約で想定されているサービスを著しく超える要求
  • 対応することが著しく困難、または不可能な要求
  • 不当な損害賠償の要求
    などは、「要求の内容」に問題があるケースです。

一方、

  • 暴行や傷害
  • 脅迫、侮辱、暴言
  •  大声などによる威圧
  • 同じ質問を執拗に繰り返す
  •  長時間の居座りや電話による拘束
    などは、「要求の仕方」に問題があるケースです。

つまり、最初のクレームそのものには理由があったとしても、その後の要求や対応の求め方がエスカレートし、社会通念上許容される範囲を超えれば、カスハラになり得ます。

私自身、ホテル勤務時代に、電話で2時間近く同じ話を繰り返すお客様への対応を経験したことがあります。

説明しても、また最初の話に戻る。
「でも、私の気持ちはどうなるんですか」
そして、また同じ要求が始まる。

当時は「カスハラ」という言葉は一般的ではありませんでしたが、今回の厚生労働省の指針には、まさに「同様の質問を執拗に繰り返すこと」や「長時間に渡る電話で労働者を拘束すること」が典型例として示されています。

カスハラは「接客業だけ」の問題ではありません

「うちはホテルや飲食店ではないから関係ない」
そう思った社長は、少し注意が必要です。
法律上の「顧客等」は、一般消費者だけではありません。

取引先の担当者、施設の利用者やその家族、問い合わせをしてきた人、さらにはまだ商品を購入していない見込み客や、施設周辺の住民なども含まれます。

また、「職場」も会社や店舗だけではありません。
取引先の事務所、打ち合わせ先、顧客の自宅など、労働者が業務を行う場所も含まれます。
電話やSNSなど、インターネット上で行われるものも対象です。

そして今回の改正には、企業規模による猶予措置は設けられていません。従業員を一人でも雇用していれば、中小企業も大企業とまったく同じように義務の対象になります。「うちは小さい会社だから」は、対策を後回しにする理由にはならないということです。

そのため、カスハラの姿は仕事によって大きく変わります。

店舗や受付なら、暴言、威圧、居座り。

電話なら、長時間拘束や執拗な繰り返し。

訪問介護、訪問看護、営業、修理などの訪問型業務なら、顧客の自宅という「相手側の場所」で対応しなければならないという別の危険があります。

BtoBの会社でも、「大切な取引先だから」という理由で、担当社員が無理な要求や暴言に耐えているケースはあり得ます。

だからこそ、他社のマニュアルをそのまま持ってくれば終わり、ではありません。

自社では、どこで、誰が、どんな相手と接しているのか。

そこから考える必要があります。

会社が決めなければ、現場では判断できない

今回の改正で私が特に重要だと思うのは、会社としての方針を明確にすることです。

厚生労働省の指針では、事業主に対して、カスハラには毅然と対応し、労働者を保護するという方針を明確にして周知することを求めています。
さらに、カスハラが発生した場合にどう対処するのかを、あらかじめ決めておかなければなりません。
たとえば、


「いつ上司に代わるのか」
「どこまで説明したら電話を終了していいのか」
「一人で対応させないのはどんな場合か」
「録音・録画はどうするのか」
「いつ警察に通報するのか」
「本社や本部には、どの段階で報告するのか」

こうしたことです。

実際、厚生労働省の指針にも、

  • 十分説明しても要求が繰り返される場合には一定時間で電話を切ること
  • 可能な限り一人で対応させないこと
  • 必要に応じて管理監督者が対応すること
  • 犯罪に該当し得る言動について警察へ通報すること

などが、対処例として明記されています。

実際、私がホテル支配人時代に従業員に伝えたのも「ものを投げつけられたら通報する、カウンターを3回以上叩いて威圧する人は通報する」など、夜間など管理職がいない時間帯でも判断できる、わかりやすい場面での警察協力でした。

なお、対策を怠ったこと自体に懲役や罰金といった直接の刑事罰はありません。ただし、労働局から改善の勧告を受けても従わなかった場合には企業名が公表される規定があり、さらに従業員が体調を崩すなどした場合には、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われるリスクもあります。
「罰則がないから後回しでいい」と考えるのは、リスクを見誤っています。

お客様だから仕方がない」で終わらせない

現場にいる従業員に、
「それくらいうまく対応して」
と言うのは簡単です。

しかし、従業員の立場では、自分の判断で電話を切ったら怒られるのではないか、サービスを断ったら会社に迷惑をかけるのではないか、と考えてしまいます。
だからこそ、会社が先に線を引く必要があります。

正当なクレームには誠実に対応する。

しかし、契約を著しく超える要求、暴言や脅迫、執拗な要求、長時間の拘束まで「お客様だから」と受け入れる必要はありません。
2026年10月1日から始まるカスハラ対策の義務化。

まず社長に確認してほしいのは、
「うちの会社では、どこから先を従業員一人に対応させないのか」
その答えを、現場の従業員が知っているかどうかです。

実際、厚生労働省の指針にも、

  • 十分説明しても要求が繰り返される場合には一定時間で電話を切ること
  • 可能な限り一人で対応させないこと
  • 必要に応じて管理監督者が対応すること
  • 犯罪に該当し得る言動について警察へ通報すること

などが、対処例として明記されています。

私がホテル支配人時代に従業員に伝えたのも「ものを投げつけられたら通報する、カウンターを3回以上叩いて威圧する人は通報する」など、夜間など管理職がいない時間帯でも判断できる、わかりやすい場面での警察協力でした。

なお、対策を怠ったこと自体に懲役や罰金といった直接の刑事罰はありません。ただし、労働局から改善の勧告を受けても従わなかった場合には企業名が公表される規定があり、さらに従業員が体調を崩すなどした場合には、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われるリスクもあります。
「罰則がないから後回しでいい」と考えるのは、リスクを見誤っています。

お客様だから仕方がない」で終わらせない

現場にいる従業員に、
「それくらいうまく対応して」
と言うのは簡単です。

しかし、従業員の立場では、自分の判断で電話を切ったら怒られるのではないか、サービスを断ったら会社に迷惑をかけるのではないか、と考えてしまいます。
だからこそ、会社が先に線を引く必要があります。

正当なクレームには誠実に対応する。
しかし、契約を著しく超える要求、暴言や脅迫、執拗な要求、長時間の拘束まで「お客様だから」と受け入れる必要はありません。
2026年10月1日から始まるカスハラ対策の義務化。
まず社長に確認してほしいのは、

「うちの会社では、どこから先を従業員一人に対応させないのか」

その答えを、現場の従業員が知っているかどうかです。

では、会社は何から準備すればいいのか—中小企業がいま動ける対策

境界線がわかっても、それだけでは現場は守れません。ここからは、10月の施行までに中小企業が実際に手をつけられる準備を、方向性ごとに整理していきます。
厚生労働省の指針は、事業主が講ずべき措置を大きく5つの区分・10項目にまとめています。大企業のような専任部署がなくても、「今ある体制でできる形」に落とし込むことがポイントです。

1. 会社の方針を、言葉と文書にする
準備事項

  • 「カスハラには毅然と対応し、従業員を守る」という方針を、経営者自身の言葉で一文にまとめる
  • 就業規則やハラスメント防止規程に明記する(既存のパワハラ規定に追記する形でも可)
  • 朝礼・社内掲示・社内チャットなど、日常的に目に触れる形で周知する
  • 店頭掲示やホームページ、契約書・利用規約に「不当な要求・迷惑行為には対応をお断りする場合がある」旨を明記する

注意事項

  • 方針を作って終わりにせず、実際に対応した従業員が「毅然と対応したのに叱られた」という状況を絶対に作らない
  • 経営者が知らないところで、現場だけがルールを運用する状態にしない

2. 判断基準とルールを具体化する
準備事項

  • 「どこまで説明したら電話を切ってよいか」「一人で対応させない基準」「上司に交代するタイミング」を、数値や具体的な言葉で決めておく
  • 業種特性に合わせたルールを用意する
    • 店舗・受付:防犯ブザーや非常通報の設置、複数人対応への切り替え基準
    • 電話対応:通話録音の運用、時間の目安、切り方の台本
    • 訪問業務(訪問介護・訪問看護・修理・営業など):同行ルール、緊急連絡先の携行、途中離脱の判断基準
    • BtoB:取引先の窓口を通じた申し入れルール、担当者を孤立させない体制
  • 悪質なケースへの対処例(警告文の発出、出入り禁止、契約解除、警察への通報基準)をあらかじめ整理しておく

注意事項

  • 「出入り禁止」は発生時に自動的に適用するものではなく、あらかじめ定めた基準に沿って個別に判断する
  • 録音・録画は目的や保管方法についてルールを決め、プライバシーや個人情報保護に配慮する

3. 相談・報告の体制を、少人数でも回る形で作る
準備事項

  • 相談窓口として「まず誰が話を聞くか」を最低限決めておく(社長本人、店長、顧問社労士、外部相談窓口の活用など)
  • ワンオペ店舗や拠点向けに、緊急時すぐに連絡できるホットラインやチャット、タブレットによる本部通報の仕組みを用意する
  • 発生時にすぐ使える記録シート(日時・相手・内容・対応・結果)のフォーマットをあらかじめ準備しておく
  • 本社・本部への報告ルート、外部(警察・弁護士・保険会社)との連携先リストを整えておく

注意事項

  • 相談したことを理由に従業員が不利益な扱いを受けないことを、規程上明文化する
  • 相談内容や被害者の個人情報の取り扱いに配慮し、必要以上に社内で共有しない

4. 事後対応と再発防止の流れを決めておく
準備事項

  • 事案発生後、事実確認から被害者への配慮、再発防止までの流れを簡単なフローチャートにしておく
  • 被害を受けた従業員へのケア(メンタル面のフォロー、配置転換、シフト調整など)をあらかじめ検討しておく
  • 対応の最終判断は現場任せにせず、上司や経営者が引き受ける体制にする

注意事項

  • 「なかったことにする」対応は二次被害や離職につながるため、必ず記録を残し、振り返りを行う
  • 内容によっては民事・刑事事件に発展する可能性があるため、録音・メモ・防犯カメラ映像などの証拠を保全するルールを決めておく

5. 研修で「現場が迷わない」状態を作る
準備事項

  • 入社時・定期研修でカスハラの定義、対応フロー、相談先を周知する
  • ロールプレイ形式で、言い返さずに電話を切る言い回しや、エスカレーションの判断練習を行う
  • 管理職向けには「部下の対応を否定しない」「いざというときは上司が矢面に立つ」という意識づけを行う

注意事項

  • 研修は一度きりで終わらせず、指針の改定や社内でのヒヤリハットに合わせて更新する
  • 「うまく対応して」という精神論だけで終わらせず、具体的な言い回しや手順まで落とし込む

6. あわせて検討したい社外の資源・制度

  • 顧問弁護士・社会保険労務士との連携(規程の整備、事案発生時の相談先の確保)
  • 施設賠償責任保険・使用者賠償責任保険など、保険内容の見直し
  • 業界団体や自治体が提供するカスハラ対応マニュアル・研修の活用
  • 自治体独自のカスハラ防止条例がある地域(東京都など)では、その内容もあわせて確認しておく

まとめ:10月1日までに、まず確認しておきたいこと

  • 自社の「顧客等」にあたる相手を、業種・接点ごとに洗い出したか
  • 「どこから先は従業員一人に対応させないか」の基準を、経営者自身が言葉にできるか
  • その基準を、現場の従業員が知っているか
  • 相談を受けたときの窓口と、記録の残し方が決まっているか
  • 対応の結果がどうなっても、上司・経営者がその判断を引き受ける姿勢を示せているか

カスハラ対策は、マニュアルを一枚作れば終わるものではありません。しかし、「うちの会社ではどこまでが正当なクレームで、どこから先が従業員を守るべき場面なのか」を経営者が先に決めておくことが、10月の施行に向けた一番の準備になります。

公的機関リンク集

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例 | 計画 | TOKYOはたらくネット
カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介 | 政府広報オンライン
資料ダウンロード | あかるい職場応援団

001662580.pdf

職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省

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